『エルネスト』──革命家必見!(★★★★★) [映画レビュー]
『エルネスト』(阪本順治監督、 2017年)
映画の90%がキューバ舞台のスペイン語である。そして、日系人とはいえ、ボリビア国籍の、フレディ役、オダギリジョーがすばらしいスペイン語で、革命を夢見る、本人よりは十五歳も年下の青年を演じきっている。そして本作は、「革命家」の実態を、わりあいリアルに描いていると思われる。それは、テロリストとは真逆に、わが身を人々の役立つために捧げ、ともに自由を獲得するために戦おうと夢見る人々である。エルネスト”チェッ"ゲバラが、まずそれを夢見た。この種の映画には、ゲバラ役の存在感が重要であるが、本作で、それは成功している。
ほんものもこのようであったと思われるゲバラが、広島を訪れるところから始まる。ゲバラは、広島記念館の惨状の写真や資料を見て言う。
「このような酷いことをされて、なぜアメリカに対して怒らないのか?」
そして、ゲバラと同じように医学生から革命家に転じるフレディ前村がゲバラに聞く。あなたを支えているものはなにか? ゲバラは答える。
「怒りだ。怒りは憎しみとは違う」
そして、誠実な青年フレディは、革命家としての訓練を受け、軍事政権に支配され、人々が酷い目にあっている故郷ボリビアの村に潜入する。かつては親切にした青年に、恩を仇で返され、裏切りに合い、フレディ前村は処刑される。それはそのまま、ゲバラと軌を一にする。
冒頭、セルバンテスの、「自由がなによりも重要だ」という言葉が引用される。
広島平和公園で、「二度とこのようなことを起こさない」と書かれた記念碑の意味を聞いて、「主語がない」というゲバラ。そして、犠牲者を祀った碑の献花された花の写真を撮るのだが、そのカメラのシャッターの切り方が、リアルであると思ったら、ゲバラ役のホワン・ミゲル・バレロ・アコスタは、ダンサーで写真家だということだった。
全編抑制された描き方だが、最後の、フレディがゲバラから授かった「革命家」として名前、ゲバラのファーストネーム、「エルネスト」と呼ばれ振り向く瞬間が、劇的に「赤く」輝き、彼らの地味な青春が心を打つ。
フレディ前村、享年25歳。
"チェッ"ゲバラ、享年39歳。
今こうした映画が作られる意義も意味も十分にある。
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