【詩】「Pale Fire(青白い炎)」 [詩]
「Pale Fire(青白い炎)」
2時間43分の『ブレード・ランナー2049』をもう一度観た。
前回は前半始まってからの鑑賞で、
しかも途中こっくりとやってしまって、
ちゃんと観たとは言えなかった。
それですますこともできたが、
最後のクレジットに出てきた本のタイトルが気になった。
恥ずかしながら、一回目の鑑賞では、その本について、
どこに出てきたかわからなかった。
それは、主人公のK(以下、スラッシュと数字とドットが続くが、ただKとだけ呼ばれることもある。ただのKは、当然、カフカの登場人物とカフカそのひとを思い起こさせる)が、
「読んでいた」本で、Kの部屋のテーブルに置いてあるのが
さりげなく映し出された。それから、
早く過ぎ去ってしまって確認できないが、
LAPD(2049年にも存在した(笑))のKが、オフィスに帰還したとき、「認証」を要求され、そのとき、文章を言わされるのだが、
もしかしたらそれは、その本の中の引用だったかもしれない。
アンドロイドは、人間と逆で、未来は変えられないが、過去は変えられる。
埋め込まれた記憶。小さな木馬に彫られた日付、21.6.10。ほんものの木でできている。
二度、Kの手のひらのうえで雪が溶けていく場面がある。
Kがしきりに気にしていたのは、「魂」の問題である。アンドロイドに魂はあるか? 製造されたのではなく、「生まれた」ものには、魂がある? Kはそこに拘っていた。
前作で、人間のLAPD、デッカードは、叛乱容疑で追っていたレプリカントの女と恋に落ち、どこかへ「駆け落ち」した。
その続編の『ブレードランナー2049』では、その女が出産していて、その子供を探し出すというのが、Kの任務だった。
Kの記憶のなかの、木馬にまつわるできごとと、その木馬に付された日付。
もしかしたら、その子供とは、自分ではないかと、
甘い夢を見るK。
映画は、レプリカントと人間の「境目」をしきりに問題にしてくる。
レプリカントとは、プログラミングされたAIに、おそらく、バイオテクノロジーで開発された、人間の細胞と酷似した細胞を持つ、
人造人間。
これはなにかのアレゴリーか?
いや、アレゴリーではないと、柳田国男なら答えるだろう。
そして「魂」は、「物」にも存在すると。
「魂」と人間の「肉体」は、必ずしも平行関係にない。
「魂」は魂として存在する。
免疫不全という理由でガラスの檻に隔離されて育った博士がいて、
彼女は、記憶のエキスパートで、記憶を分析かつ、創造することができた。
Kが彼女を訪ね、自分の記憶が自分本来のものか、人工的に埋め込まれたものか調べてもらう。
「そこに座って。その記憶を思うだけでいいわ」
彼女はそう言って、ガラス越しの顕微鏡のようなもの(解析用PC?)を覗く。
そして、涙を流す。
Kは察知して、絶望の叫びをあげる。
その「記憶」は、彼女のものだった──。
おそらく、Kは、彼女の「記憶」のコピーを収める「器」として選ばれたのだ。
この映画は、監督ヴィルヌーブが描いた、一篇の詩だった。
読書するレプリカント。その本が彼を進化させていた?
それは、小説だが、一風変わった小説で、四つの詩篇からなる詩と、その序文と解説より成り立っていた。
なぜ、「寝落ち」していた私が、延々と続く赤い小さなクレジットの文字の中からその題名に目がいったのか?
それは、まさに私が読んでいた本だった。
その本の名は、ウラジミール・ナボコフ作『Pale Fire(青白い炎)』。
もしかしたら、私も、レプリカントかもしれない。
そして、その本の作者も。
そんな詩が書かれている。