【詩】「サロメ」 [詩]
「サロメ」
新国立劇場で蜷川幸雄の演出のもと、
多部未華子のサロメが、新劇的なあまりに新劇的な台詞まわしをマスターし、朗々と、コピーして平気なその『サロメ』を、果たして煉獄でどう見ているのか、ワイルドは。
「サラ・ベルナール? 誰? その人」と、多部未華子は言うだろう。この、紀伊国屋演劇賞は取った、若手女優は。
誰? その、Tabé? 天国のサラ・ベルナールは言う
けふ、4月13日? は、ホロコースト記念日。600万のユダヤ人がナチに殺されたんです。殺虫剤でいっきにやられた害虫みたいに。
命の重さなんて全然なかったんです。
LE JEUNE SYRIEN. Comme la princesse Salomé est belle ce soir!
若きシリア人 今宵、サロメ王女はなんて美しいんだ!
ALAN DELON. Comme tu es belle !
中村晃子 おーねがい! だまってー、いて〜!
細川俊之(なんて役者がいましたね。小川真由美の元ダンナで)不思議だ、きみと逢う夜は、いつも初めてみたいなんだよ!
DALIDA. Toujours des mots, encore des mots...
透けたドレスで、怪しく踊るは、サロメ。
誰でもない女。
あの人の、
首がほしいわ。
なぜ、ワイルドは、フランス語で、その戯曲を書いたのか?
そして、彼の「恋人」の男が英訳した、
不思議な芝居。
不発、禁止。そして、忘却。
そして、ドイツでラインハルト演出による成功。それは、蜷川と似た演出だった。
義父に魅入られるサロメ
義父に殺されるサロメ
なんたる!
ワイルドは、なぜこんな恐ろしい芝居を書いたのか?
横取りした、リヒャルト・シュトラウスの歌劇の方が有名な『サロメ』。
その後、600万人ものユダヤ人が殺されるなんて、まったく知らないワイルド。彼は20世紀になる前、1900年に死んだ。
踊れ、踊るは、トルファンの透けた絹のドレスの若き王女
その肌色は、月の光を浴びて、テキストからはみ出す
その太ももの歴史の
拒絶。
ヴィオロンのためいきのひたぶるに
うら悲し
だん、だだん。
だだん。
HÉRODE [Se retournant et voyant Salomé] Tuez cette femme!
[Les soldats s'élancent et écrasent sous leurs boucliers Salomé, fille d'Hérodias, princesse de Judée.]
エロド(振り返り、サロメを見ながら)あの女を殺せ!
(兵士たち突進し、楯でサロメ、エロディアスの娘、ユダヤの王女を、押しつぶす)
多部未華子、悪くなかった──。