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『オリエント急行殺人事件 』──ケネス・ブラナーの才気だけを見せつけた(★★★) [映画レビュー]

 

『オリエント急行殺人事件 』(ケネス・ブラナー監督、2017年、MURDER ON THE ORIENT EXPRESS)

 

 原作は2回読み、実はこれをパロッた小説も書いた(爆)。ケネス版は、冒頭からして、原作とはまったく違う。原作は、シリアのアレッポ(イスラム国に占領され、今は解放されつつある地域)の「オリエント急行に連絡している列車」に乗り込むシーンから始まる。その地で世話になった軍人に送られ、雪のアレッポから列車に乗る。私は「探偵」を女に、見送りの軍人を、アーミー・ハマー(をイメージした人物)にしたが(爆)。

 

 さて、列車はイスタンブールで初めて、「オリエント急行に連絡」し、ここで「さまざまな事情を持つ」登場人物が乗り込んでくる。ポワロはイスタンブールで休暇を過ごすつもりで、ホテルを取ってあったが、そこへイギリスから電報が来て、急遽帰国となり、オリエント急行に乗り込むのである。ケネス版は、なぜか、(原作には存在しない)プロローグに、けっこう時間を費やしている。ポワロの実力と背景を説明したかったのか。

 

 さらに、原作のイメージと、わざとかけ離れている俳優を、登場人物に配しているとしか思えない配役である。まず、ポワロ自身が、やや太り気味のおっとりした老人のイメージが、すらりとした壮年のケネス・ブラナーが、老けを装い、大げさで気持ち悪いヒゲをつけて登場、これにまず違和を感じる。そして、ホテルで出会う、旧友でオリエント急行の会社の社長のような人物。旧友なので、ポワロと同じ老人でなければならないが、これが、すらりとしたイケメンで、面食らう。乗客の横柄な金持ちのアメリカ人、これを、ジョニー・デップが演じていて、それなりに魅力的であるが、原作にそったイメージなら、太ってヒゲを生やした、彼の助手を演じた男の方が近い。むしろ、曰くありげな助手の方が、デップのイメージなのである。

 

 それやこれやで、作者のクリスティは、アメリカで実際に起こった事件をはめ込んで、斬新なミステリーを創り上げているが、そういう文学的価値はまったく無視されている。監督でもあるケネス・ブラナーは、「どうせみんな読んでいるだろう」と思ったのか、物語をものすごいスピードで語る。すごしずつ謎を解明していくミステリーの醍醐味は皆無で、「すばらしい」カメラワークとスタイリッシュな面が強調されている。これをどう評価したらいいのか? 確かに、ケネス・ブラナーは才能がある──。それだけを見せつけた作品である。


 


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