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『新世紀、パリ・オペラ座』──オペラ座宣伝ドキュメンタリー(★★) [映画レビュー]

 『新世紀、パリ・オペラ座 』(ジャン=ステファヌ・ブロン監督、

 2017年、原題『L'OPERA/THE PARIS OPERA』)

 

 原題は、『L'opera』。「オペラ座」とは、フランス文化省管轄の、バレエ、オペラ団体で、新旧の劇場「オペラ座」も含まれる。フランスは、文化立国で、どこかの国と違って、文化にも予算をそれなりに取っている。その記念すべきパーティーには、当然大統領も出席する(それも描かれている)。

 

 すでにして関心をなくしていたので、このドキュメンタリーが扱っている事件、バレエ芸術監督のミルポワ(ナタリー・ポートマンのダンナ)が退任し、長年エトワールだった、オレリー・デュポンが就任したこと、超大作『モーゼとアロン』上演直前の主要キャストの降板、などが起こったことは知らなかった。しかし、本編でそれらの事件は扱っていながら、「原因」など、都合の悪いところには当然踏み込んでいない。

 これは、監督からして、「内輪が撮ったドキュメンタリー」だからであり、まあ、宣伝ドキュメンタリーといってもいいだろう。

 

 私は、8年ほど前のクリスマス、バスティーユの新オペラ座で、クリスマス定番のバレエ、『くるみ割り人形』を観たが、高い料金(「総裁」が、これを会議で検討しているシーンもある。「もっと庶民が観られる」値段に、と発言しているが、とうてい、庶民が観られる値段ではない)にもかかわらず、寝落ちしていた(爆)。観客のマナーはとても悪く、カーテンコールが始まるや否や、カメラ撮影ばちばちである。それは、オペラ座が「育てよう」としている、子どもたち(わざとか、アフリカ系の子どもばかり映されていた)のヴァイオリン教室の発表コンサートでも、演奏中も、親たちが、スマホのカメラで撮影していたところでもわかる。

 

 はいはいはい、「オペラ座」は、「世界の芸術(バレエとオペラ)」を支えていますよ。超大作オペラ『モーゼとアロン』って、なんで「超大作」なのかっていうと、一年かけて稽古し、少なくとも日本人は見たこともないような生きた「巨牛」を舞台に出しているからである。その巨牛を、徐々に音と光に慣れさせるなど、世話も「ていねいに」描かれているが、だいたい、生きた牛にこだわってしまうところがいかにも、おフランスであり、斬新さが、べつの方向へブレて、というか、変わらないので世間との解離が進んでいる、のが、フランス芸術全般の問題点でもある。国家がパトロンについていると、なかなか面倒な、コンピューターでいうと、巨大IBMである。今必要なのは、かつてのジョブズがおこしたAppleであるが、さあ、どうでしょう?

 

 この巨牛は眼をひいた。ほかには、ロシアの田舎町出身の青年を、その群を抜く才能に眼をつけて抜擢するところである。彼は、相撲のモンゴル人が徐々に日本語を覚えていくように、フランス語を身につけていく。フランスの文化とは、外国人に支えられていることを、ある面では頭の固いお役人たちもよく知っているからである。

 

 ……と、まあ、それ以外は、たとえ、小さな裏方さんや(最後に)掃除する人々を映していても、やはり、「オペラ座」の内輪ドキュメンタリーとしかいいようがない。なぜなら、監督の視点を、あらかじめ欠如させているからである。

 そうではあるが、「牛の労働基準法」とロシア田舎青年「ミーシャ」のために、星をひとつ加えて二つとする。





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