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『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ 』──超ハードボイルド(★★★★★) [映画レビュー]

『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』 (ステファノ・ソッリマ監督、2018年、原題『SICARIO: DAY OF THE SOLDADO』)

 

 前作で、ある意味正義の視点を持っていた、エミリー・ブラントが抜けて、むんむん男臭さ丸出しの二人のオッサンが残り、センチメンタルという批評家氏の言葉はまったくあてはまらない、超ハードボイルド的状況を描いている。

 ジャック・ニコルスンの『ボーダーライン』から、何かと問題の温床である、アメリカとメキシコとの国境界隈であるが、CIA特別捜査官が政府高官の質問に答えて曰わく、「二十年前なら麻薬が運び込まれてました。今は人を運んでいます」。つまり、その人の中に、まともには、合衆国に入国できない、イエメンからのテロリストが含まれている。今回は、彼らが引き起こしたテロ事件が発端となり、テロに屈しないアメリカを示すため、CIA部員らが動員される。彼らは命令とあれば、平然と人を殺す。そうやって、作戦の収拾をつける。今回の作戦は、麻薬カルテル王の娘を誘拐し、メキシコに内戦を引き起こすことにあったが、この作戦は失敗する。ここがリアルなのである。その失敗及び、作戦の存在を隠すため、CIAの上層部は、わざと誘拐した麻薬王の娘の少女を含めて、皆殺しにしようというのである。しかし、このオペレーションに初めから携わった、CIA捜査官、ジョシュ・ブローリンが個人的に雇った、暗殺者(もとは、判事だったかなんかだったが、家族を麻薬王一味に殺され、復讐を胸に秘めている)、アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)が、少女を連れて彷徨するうち、人情なようなものに目覚め、というより、最初から失っていないのであるが、それは、冷徹なブローリンも同様である。

 この抗争劇には、国境付近に住む少年たちがチンピラ、のちに、シカリオ(原題でもある)=暗殺者に「昇格」する、も絡んでくる。デル・トロは、そういう手下グループに正体をつかまれ、年長者に命令された、暗殺者を目指す少年に銃殺される──。しかして、その銃殺は、完全ではなかった。頭巾を被らされたデル・トロの頭部は無事で、頬あたりに弾は貫通していた──。おそらく、デル・トロが瞬間的に動いて、頭部を避けたのだろう。数時間のちか、半日のち、トロは体を動かし始める──。

 たかが国境だが、そのなかには、世界の問題がすべて含まれている。それを本作は、超ハードボイルドとして描いている。


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【詩】「きみはきっと来ない」 [詩]

「きみはきっと来ない」

 

ひとりきりのクリスマスイヴ、うーがーあああ。

小西甚一センセイによれば、俳句というのは、基準がないので、歴史的にみていくほかないという。それぞれのお家元は、勝手な基準でやっているわけである。

 

 日東の李白が坊に月を見て  重五(名残表十一)

  巾に木槿をはさむ琵琶打  荷兮(名残表十二)

 うしの跡とぶらふ草の夕ぐれに  芭蕉(名残裏一)

  箕に鮗(このしろ)の魚をいたゞき 社国(名残裏二)

 わがいのりあけがたの星孕むべく  荷兮(名残裏三)

 

中国の詩人などの故事、弘法大師の母親の、聖母マリアをも彷彿とさせる赤子祈願などを、ほのめかせているわけだが、2018年のカルロス・ゴーンはもとより、日産リーフ、トヨタはなんだろ? 大谷翔平も藤井ソータも、まったくわからないのである。牛のお墓といわれても。牛こそ、墓なんか想像だにされたことないでしょう。たいてい、食われているわけですから。

荒井由実は十二月に遅く起きて、ぼんやり曇る窓から見ているわけです。そこに元カレの通るわけもなく、もうすぐ来るクリスマス。

思い出の日には、また会おうと言った、もう会えないくせに。必ず今夜なら言えそうな気がして、うー、がーあああ……きっと雪へと変わるだろう。それにしても、「くちなしの花」をカバーしている舟木一夫のうまいこと、そして、「昔の名前で出ています」をカバーしている新沼謙治のうまいこと。都はるみのカバーする「思い出酒」ですら、ご本家よりうまいんです。ご本家よりうまく歌える自信がなければ、カバーなどするべきではないんです。プロはね。

「イルカにのった少年」、城みちる。これだけはご本人です。誰がカバーしますか? 「いるかにのった少年」なんか。でも、なんで、少年が、いるかに乗ってやって来るのかは、まったくわからない歌詞なんですが。きみに! きみに! きみに! 会うため〜やあ〜ってく〜る〜♪ だそうです。

 

収拾つかない人間の生の、泥まみれの闇。雨が雪に変わると、なぜ、いいことあると思えたのか? ただの気象の変化に。そう、きみは、きっと来ない。永久に、ひとりぼっちの、クリスマスイブ。弘法大師の母は、頭に盥を載せ、高下駄をはいて屋根にのぼり、天に向かって、子どもを授けてください!と祈り、大師を生んだそうです。あーめん。

 

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