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『KUBO/クボ 二本の弦の秘密 』──今年度ベスト1(★★★★★) [映画レビュー]

『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』( トラヴィス・ナイト監督、2016年、原題『KUBO AND THE TWO STRINGS』)

 

 やられた感あり。これは物語なのである。作者は日本の中世にインスパイアされたのだろうが、どの時代とかどの場所とかは特定していない。ただ、「肉親同士が殺し合う」時代。キーワードは、ごく日本的な三弦の楽器、怨霊、折り紙……とくに折り紙が重要である。折り紙は、アメリカ人にとって、異国的想像力を刺激するものなのか、小学生の全米綴り字コンテストを描いた映画『綴り字のシーズン』にも、小学生にその綴りを答えさせる課題として、Origamiが出ていた。日本人にとっては、やさしい綴りなのに。そして、スタバの、マグカップの上に組み立てて作るレギュラーコーヒーの商品名も、Origami。主人公の少年、Kuboは、三味線でOrigamiを操ることができる。あの、われわれになじんだ、正方形の折り紙が生きているかのように、ある形へと折り上がっていく、その姿の美しさを、ていねいに見せる。それに、人の表情の、眼の玉が微妙に動き、繊細な内面を表す──。

 デティールが重要な物語を表現するのは、生身の人間よりアニメの方が効果的だろう。

 

 本作について、案の定、「日本題材」ということで、韓国だの中国だの、プロパガンダだのの単語が行き交っている。あわれな人々である。映画を、いつもそういうアタマを通してしか鑑賞できないとは。いつも、「こいつの裏はなんだ?」と考えながら見ている。ご愁傷さま。

 

 日本人でも眼を覚まされる、日本の中世という時代のデティールに、父母の愛という普遍のテーマを詰め込んだ本作。猿やクワガタなどの単純な生物でも、深いキャラクターが与えられている。またそれを「演じる」声優、シャールーズ・セロンやマシュー・マコノヒーがすばらしい。

 

 三味線でも三弦でもなんでもいいが、とにかく、少年でも持ち歩くことのできる和楽器の、二本の線に、あのような意味を与えたことは、驚愕である。日本人の頭ではあまりに一定のイメージに支配されて、そのようなことは考えつかない。

 

 本作を観ると観ないとでは、今後の人生が変わってくる……そんな気がする十年に一度の一本だ。

 

 


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『探偵はBARにいる3 』──注意! エンドロール後にオチあり(★★★★★) [映画レビュー]


『探偵はBARにいる3』(吉田照幸監督、2017年)


 


 なんかクレジットが流れ始めると、「もう映画は終わった」とばかり早々に席をたって出ていってしまう人がいる。そういうのを見ると、映画愛がないね、と感じる。私は明かりがつくまでは座っている主義。なので、こういう人間には、なにかといいことがある。まず第一、知らない間に床に落としていたものが見つかるし、忘れ物も少ないし、第二は、ときどき、「ものすごくオモシロイオチ」が付いている。たいていは、「おまけ」みたいなものかも知れないが、今回は、「おまけ以上」の、本編で、サイコーにおもしろいオチだった。


 それをここで明かしてしまおうと思うので、楽しみな人は要注意で、以下、読まないように──。


 


 ミステリーとしても、人間ドラマとしても、クサいというか陳腐である。しかし、どうせ、新宿歌舞伎町の、はぐれエリート、「新宿鮫」には勝てっこない。「探偵」とだけ呼ばれる探偵(大泉洋)と、助っ人の、北海道大学で酪農の研究をしている「高田」(松田龍平)のコンビがかなり魅力的である。ありそうで、なかなかないキャラである。「探偵」は、運転免許もない飲んだくれで、高田は、ぼーっとしたしゃべり方ながら、北海道大学空手部で秘かに訓練を積む、格闘と運転担当である。その車というのが、いまどきゴミ捨て場にもないような、錆び錆びのフォルクスワーゲン(に見えたが)。お約束の、ヤクザとの格闘には、わりあいたっぷりのシーンがとってあって、高田はもちろんのこと、「探偵」もわりあい強いのである。むしろこれだけが二人の「探偵業」を支えている。


 今回、高田がニュージーランドへ、酪農の勉強へ行くというのが、ナナメぐらいの糸になっていて、事件解決後は、「探偵」も餞別を渡す。「いいよ」と遠慮する高田。「一度出したもの、引っ込められるか」という「探偵」。数回の押し問答ののち、受け取る高田。


 いつもの路地で左右に別れ、「さよなら」。


 ……が、エンドロール終わって……


 牛小屋の前で帚で掃いている高田が映る。


「なんだ、ニュージーランドへ酪農の勉強に行ったんじゃなかったのか?」とそこへ現れる「探偵」。さらに、「まさか隣り町にいるとは……。札幌から快速で二十分じゃないか」


高田「ニュージーランドの酪農の勉強はしてるよ」


 そこへ、牛を連れた大男のガイジンが横切っていく。


高田「あいつ、二メートルあるんだ」


探偵「餞別返せ!」


高田「使っちゃって、もうないよ」


探偵「何に使ったんだ?!}


高田「競馬」


探偵「このやろー!警察呼ぶぞ!」


 


 ほかに、オカマ役の篠井英介がシーン少なめだけど、魅せる!し、 フランキー・リリーも、悪役なれど、いつもの「丸顔」よりはすっきり細目顔で、真のワルを演じている。北川景子大活躍、なれど、この「美人顔」には違和感あり。前田敦子、もう「地」としかいいようがないが、今回、その「大根ぶり」を「利用した」と見た。


 タイトルは、ススキノの便利屋「俺」シリーズの一冊から取ってあるが、なかなかよい。


 ストーリー陳腐ながら、きっちりハードボイルドしている。そして、札幌の生活感。縦糸ストーリーは、誰でも書いているだろうから省略(笑)。


 


 


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『現代詩手帖』2017年12月号(思潮社)──(いまどき貴重な)「住所禄」は2600円でも高いとは言えない(笑)。(★★★★)  [詩壇?]

『現代詩手帖 2017年12月号』(思潮社)

 

毎年、11月終わりになると出る、「詩人」さんたちの「住所禄」が中心の「詩のザッシ」。詩集を発行して、「さて誰に送ろう?」と思った時、いまどき貴重な(というのも、今は、「個人情報」法がウルサイので、なかなかひとさまのアドレスは知りがたい)「詩人」さんたちの住所がわかる(ついでに、電話番号までOKの人も結構多いのは驚かされる(笑))。長年の習慣なので、けっこう「有名なひと」の住所も出ている。荒川洋治氏など、「おれは(そのへんに掃いて捨てるほどいる)詩人ではなく、『現代詩作家』なんだ!」と、自ら表明されている人の住所は出てません。こういう「個人情報丸出し」ザッシはほかにない。

 ほかに、「その年に話題となった」(らしい)詩のアンソロジーと、「2017年の詩の総括」、「2017年の詩集ベスト3など」の編集部が選んだ「詩人」さんへのアンケートが載っている。詳細に見ると、あることに気づく。それは、このザッシの版元が出した詩集はもちろんだが、知人同士などが気をつかって選んでいる、あるいは、「狭い世界の叙情を支え」かつ「有名な」人の詩集が話題になっている。

 詩壇を制御できると思ってきた思潮社であるが、さて、来年はどうでしょう? なお、次号、1月号は、毎年、「思潮社が認める」「第一線詩人」の作品集である。12月号で「活躍」できても、この1月号に載らないと「第一線詩人」とはいえない、そういう、ヒエラルキー形成定番のリストである。とくとご覧あれ(笑)!

 

 (しかし、いまどき、ジュンク堂にもおいてないものを、誰が読むかね? は、ある。こちらの2600円は完全に高い(爆)!)

 


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他人の一句@20171202 [俳句]



  買つて来いスパイ小説風邪薬

 


             (丸谷才一「七十句」より)




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【訳詩】マラルメ「告白」 [訳詩]

【訳詩】

 

「告白」 マラルメ

 

私の魂はきみの額に向かう、おお穏やかな恋人、

赤茶色の染みをまき散らされたひとつの秋が夢見る額

そしてきみの天使の瞳を漂う空に向かう

入れ、物寂しい庭園へ入るように、

忠実なれ、蒼穹へ向かうひとすじの白い噴水のように!

──青白くまじりけのない十月によって柔らかくなった蒼穹へ

ひとすじの噴水は大盤に彼の無限の憂愁を映す

たまり水の上の葉っぱの褐色の最後は

風のなかをさまよい、冷たい跡をつけるが、

長い光線の黄色い太陽はのたうつままに。

 

****

 

上田敏訳

 

「磋嘆(といき)」

 

静かなるわが妹(いも)、君見れば、想(おもひ)すゞろぐ。

朽葉色に晩秋(おそあき)の夢深き君が額に、

天人の瞳なす空色のまなこに、

憧るゝわが胸は、苔古(こけふ)りし花苑(はなぞの)の奥、

淡白(あはじろ)き吹上(ふきあげ)の水のごと、空へ走りぬ。

 

その空は時雨月(しぐれづき)、清らなる色に曇りて、

時節(をりふし)のきはみなき鬱憂は池に映ろひ

落葉の薄黄(うすぎ)なる憂悶(わずらひ)を風の散らせば、

いざよひの池水に、いと冷やき綾は乱れて、

ながながし梔子(くちなし)の光さす入日たゆたふ。

 

***

 

註:まったく同じ風景を言ってるんですけどね(笑)。

 

***

 

【原文】(アクサン省略)

 

Soupir

 

Mon ame vers ton front ou reve, o calme soeur,

Un automne jonche de taches de rousseur,

Et vers le ciel errant de ton oeil angelique

Monte, comme dans un jardin melancolique,

Fidele, un bland jet d'eau soupire vers l'Azur !

____Vers l'Azur attendri d'Octobre pale et pur

Qui mire aux grands bassins sa langueur infinie

Et laisse, sur l'eau morte ou la fauve agonie

Des feuilles erre au vent et creuse un froid sillon,

Se trainer le soleil jaune d'un long rayon.

 

 

(原文は美しい韻を踏んでいるが、とてもそこまでは写せない、上田敏先達とワタシでした(笑))

 

 

****

 

 

「宮人よ我が名を散らせ落葉川」 芭蕉

 

 

(「落葉」は、冬の季語)

 

 


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